最近話題のゲノム編集「CRISPR/Cas system」についてまとめてみた!

  • 2016年3月2日
  • 2018年9月29日
  • 日記

ゲノム編集(Genome editing)とは・・・

人工ヌクレアーゼのZinc Finger Nucleases (ZFNs) やTranscription Activator-Like Effector Nucleases (TALENs) 、CRISPR/Casシステムを用いてゲノム上の標的遺伝子の破壊やレポーター遺伝子のノックインなどを可能にする技術である。

ゲノム編集は動物や植物、培養細胞(ES細胞やiPS細胞を含む)において利用可能であることから、次世代の遺伝子改変技術として注目されている。
(ゲノム編集コンソーシアムHPより引用)

ゲノム編集による生物の基礎研究に関する貢献はもちろん、材料・食物・燃料といったバイオテクノロジー、ひいては遺伝子治療耐性遺伝子の作物の作出といった分野にまで広く応用でき、今後の発展に期待できる領域である。

そこで、今回はゲノム編集技術、特にCRISPR/Cas9 systemに焦点を当てたReview (Development and applications of CRISPR-Cas9 for genome engineering.) を軸に包括的にまとめてみた。

ゲノムエンジニアリングの歴史

1989 : Homologous recombination (HR) の組換えを介した標的DNAのdouble-strand
breaks (DSBs) は、ゲノム編集界に大きな衝撃を与えた (Haber and Jasin)。

2001 : Zinc finger proteins (ZFs) には領域特異的なHRを行える可能性がある(Carroll and Chandrasegaran)。

2002 : DSBsはNonhomologous ebd-joining (NHEJ:非相同末端結合) 修復を介して
基配列の挿入や欠損
ができる(Bibikova et al.)。

2005-2013 : 部位特異的なDNA DSBsを介したゲノム編集のために主に4つ (以下
に示す) のDNA結合タンパクを用いた手法が開発された。

・Zinc finger (ZF) nucleases (Urnov et al., 2005)

・Meganucleases (Smith et al., 2006)

・Tramscription activator-like effectors (TALEs) (Christian et al., 2010)

・RNA-guided DNA endonuclease Cas9 (Cong et al., 2013)

CRISPR/Cas9 system   CRISPR発見から現在に至るまで

1987 : 大腸菌でアルカリホスファターゼのアイソザイム変換に関与するiap enzyme
遺伝子の下流に29塩基のリピートがあることを発見(Nakata and colleagues)。

2000 : 上記のようなリピート配列をバクテリアは40%以上、古細菌では90%もの生物
が保持していることが分かった(Mojica and colleagues)。

2002 : リピート配列から構成されているMicrobial genomic領域をCRISPR (Clustered
Regularly Interspaced Short Palindromic Repeats)
と名づけた。(Jansen and
Mojica)
リピート配列の近傍にはよく保存されているCRISPR-associated (cas) geneが
あることが分かった(Jansen et al.,)。

2005 : CRISPR systemsは3種類ある(Haft et al.) 。CRISPRは、ウイルス感染の免疫記憶として、またウイルスの防御機構として働いているのではないか(Mojica et al.)。

2007 : CRISPR spacersは配列特異的にCas酵素を制御しているというType IIの
CRISPR systemにおいて実験的な証明をした(Horvath and colleagues)。

2008 : 大腸菌のType IのCRISPR領域から転写されたRNAは、small crRNAs
(crRNA : CRISPR RNA) へとプロセシングさせる(Van der Oost and colleagues)。PAM配列 (PAMs : protespacer-adjacent motifs) の重要性を証明した(Deveau et al.)。

2010 : CRISPR systemのSelf-targetingを防ぐために、CRISPRのリピート配列の中にはPAM配列は無い(Marraffini and Sontheimer)。Streptococcus thermophiliusのCas9が標的DNAを切断する活性があることを見つけた(Moineau and colleagues)。

2011 : Type IIのCRISPR systemでcrRNAの生成とプロセシング必要な因子として
trans-activating crRNA (tracrRNA) を発見した(Charpentier and collegues)。      Type IIのCRISPR systemは、異なるバクテリアでもCRISPR interferenceができた(Siksnys and collegues)。

2012 : Streptococcus thermophilusまたはStreptococcus pyogenesから精製したCas
がin vitroでも標的DNAを切断できた(Groups of Charpentier, Doudna and
Siksnys)。

2013 : Streptococcus thermophilusとStreptococcus pyogenesの Type II CRISPR
systemがmammalian cellsでもゲノム編集できた(Cong et al.) (Mali et al.)。

2014 : Cas9にはRuvCとHNHドメインがあり、C末にPAM-interacting (PI) モチーフ
がある(Nishimasu et al.,) 。

CRISPR/Cas systemの概要

 
CRISPR/Cas systemsは、バクテリアの防御機構として知られており、ウイルスのDNAをCRISPR領域に挿入することで免疫記憶をする。

再度ウイルスに感染した際には、挿入されたDNAを含むcrRNA (CRISPR RNA) が、配列特異的にCasタンパクを標的DNAに誘導して二本鎖切断を引き起こす。

この際の目印として標的配列の3’末端に存在するPAM配列 (Protespacer-adjacent motifs) を目印として、複合体を形成して標的配列を認識し、PAM配列より上流の二本鎖DNAを切断する。切断されたゲノムDNAが修復・組換えされることを利用して、ノックアウトやノックインを作製することができる。

PAMの長さや塩基配列は細菌種によってさまざまであり、Streptococcus pyogenesではNGGの3塩基、Streptococcus thermophilusではNGGNG またはNNAGAAの5-6塩基である。PAMの上流の何bpのところを切断するかも細菌種によって異なる。

Streptococcus thermophilusでは3 bp上流、Streptococcus pyogenesでは正確には決まっていない。

ゲノム編集におけるCRISPR/Cas9 systemの有用性
CRISPR/Cas9 systemによる配列特異的DNA切断は非常にシンプルで、Cas9 nucleasegRNA (crRNAとtracrRNA) のみを必要とする。

また、バクテリアの免疫機構が起源であるにもかかわらず、哺乳類を含む多くの生物種で高効率の切断活性を示すことが分かっている。

さらに、gRNAを作成する上での制限はNGG配列だけであることから、デザイン上の自由度が高い。

また 、遺伝子のノックアウトが数ヶ月という短い単位で出来ることも非常に大きな利点の一つである。

ノックアウト以外にもノックインも可能であり、ゲノム編集における有用なツールである。

これまでのゲノム編集技術(ZFNやTALEN)との違い

CRISPR/Casを用いた方法は、目的のDNA配列と相同な短いgRNAを合成するだけでよく、Cas9タンパクのみを用いてゲノム編集ができる。

そのため、ZFNやTALENのようにDNA配列ごとに異なるタンパク質を合成する必要がなく簡便かつ迅速にゲノム編集を行うことができるという特長がある。

今後の課題

CRISPR/Cas9 systemにおいて特異性をどこまで出せるかが最大の課題である。標的でない配列を切断してしまうoff-targetが報告されており、この問題の解決が急がれる。

最近の試みとして、二本鎖を切断せずに一本鎖のみを切断しニックを入れるCas9のD10A変異体を用いた手法がとられている。

このD10Aを2組用いてDSB (一本鎖の切断を同じ領域に) を起こすことにより、off-target効果を1/1500に減少させたという報告がある。

まとめてみて思ったこと!

CRISPR/Cas9 systemについては論文などで目にしていたが、ゲノムのノックアウトを行うツールの一つであるという認識しかなかった。

しかし、今回のレポート作成を通じて、その認識を大きく修正すべきであると感じた。

何より素晴らしいのが、標的DNAに対しての鋳型がRNA分子を用いているという点である。

RNAの配列を変えさえすれば、Cas9は共通であることから、様々な標的に即座に対応することができる。

現在では、この技術を用いて大規模なスクリーニングも行われているようである。

科学のブレイクスルーは、科学者の発見や考察などもあるが、技術的な進歩による面も大きく寄与している。

より良いサイエンスを行っていくためには、様々な技術を学ぶ事を怠らず、解析の幅を広げることが大事であると思う。